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お知らせ

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法人の地域活動

社会福祉法人の社会的責務と相談支援

全国社会福祉施設経営者協議会 寄稿 実践事例

~社会福祉法人後志(しりべし)報恩会(ほうおんかい)相談支援センターと地域社会をつなぎ支えるもの~

事例の概要

相談支援センターには様々な生活課題を抱えた障害者や地域関係者が訪れます。相談を受けて直ちに制度利用に繋がるケースは極めて稀です。相談員は幾度もの面接を経て一人ひとりの生活課題を整理しながら次のステップをめざそうと毎日懸命な努力を継続しています。

その社会的責務の遂行を支え、地域社会と相談支援センターをつなぐものは何なのか。社会福祉法人としての基本理念、地域実践の積み重ね、そしてボランティアリズムの体現を通した事業展開とは。北海道小樽市・仁木町で展開している相談支援センターの取り組みをご紹介します。

事例の全体像

法人基本理念の成立過程 福祉施設設立後の地域住民との共同
施設に暮らす障害者の生活を支える
法人の基本理念・基本姿勢に
地域実践のみ積重ね 相談支援実践を支え繋げる3つの視点

  • 地域と共に歩む法人の基本理念の確立
  • 基本理念に基づく地域活動実践の積み上げ
  • 地域における連携基盤の構築

制度の枠を超えた相談への法人対応

  • 法人としての支援体制の整備
  • 法人としての財政的負担
ボランタズムの実践 ボランタリズムの思想・精神の醸成

  • 心の痛みと人としての尊厳を受け止める
  • 地域へのアウトリーチとコミュニティーの形成
  • 潜在化している生活課題への継続的支援
社会的責務としての相談支援の展開

社会福祉法人後志報恩会の概要

①法 人 名 社会福祉法人後志報恩会(しりべしほうおんかい)

②所 在 地 〒048-2335北海道余市郡仁木町銀山2丁目134番地

(法人事務局)〒047-0156小樽市桜4丁目6番2号

③法人設立 1989年5月23日設立認可 同年9月13日設立登記

  • 1970年年5月 社会福祉法人札幌報恩学園が知的障害者入所更生施設銀山学園を仁木町長沢西に開設 1984年4月に同大江学園を仁木町大江に開設
  • 1989年に札幌報恩会より分離独立する 1990年9月北海道立和光学園を北海道より移管
  • 現在、仁木地区に障害者支援施設2施設、障害福祉サービス3事業所(うち、グループホームが2事業所11ケ所)・障害者相談支援1事業所、高齢者通所介護1事業所を経営 共生型生活支援事業1ケ所を運営
  • 小樽地区に障害者支援施設1ケ所、障害福祉サービス4事業所(うち、グループホームが1事業所10ケ所)、福祉ホーム1事業所、障害者相談支援1事業所を経営 障害者地域活動支援センター、就労・生活支援センター、障害児通所支援施設を受託運営

1.法人の歴史と基本理念

「一人ひとりが安心して生活できる福祉コミュニティーの創造」

私たちの法人は昭和45年の知的障害者の入所更生施設の設立に始まります。知的障害者の入所施設としては北海道内で15番目でした。昭和35年に福祉法が制定されますが、全国的にも成人に達した知的障害者を受け入れる施設が不足していた時代です。知的障害児施設で過齢者が増大する中、その新たな受け入れと全道から緊急度の高いケースに対応することを設立の目的としていました。コロニー形態が全国的に主流で、初年度に70名を受け入れ、翌年には定員が140名となります。重度の知的障害者に加え、売春、窃盗といった触法行為を抱えたまま入所された人も多数を占めました。施設といっても風が吹けば停電し、雨が降れば水道が濁り、山からの湧き水をドラム缶で沸かしてお風呂といった環境でした。

そのような状況の中、「差別も偏見もない知的障害者のユートピアを創ろう」との当初の開設者の願いは、入所者の無断外出の連続に打ち砕かれていきました。鍵や塀はなくとも、入居者にとって閉鎖的な環境と受け止めざるを得なかったのでしよう。その入所者の心の痛みを受け止め、痛んだ心を開放してくれたのが地域住民の理解と協力でした。住民と施設職員との日常的な繋がりや地域行事などの共同を通して、さらには、創設者や職員が地域住民と共に語らい、地域課題を共有していく中で、住民自身が知的障害者を徐々に受け入れていってくれたのです。村の祭りでの神輿担ぎや農家への援農と交流の場は広がりをみせ、さらには地域住民のご家庭を利用者が訪問するまでになりました。それは「家庭訪問」と称され、140名の利用者が年6回、地域住民宅や職員宅を訪問し食事を共にするのです。こうした地域住民と施設利用者、職員との共同実践を基に、法人は施設利用者を含めた地域福祉活動を進め、それらの実践から基本理念を制定するに至ったのです。今は、施設に暮らしながらも地域住民とのふれあいを通して、入所者それぞれに自分の「心の居場所」を地域社会に見つけていったのだと振り返ることができます。現在では地域住民の皆さんの理解と協力の下に小樽市内と仁木町内で合わせて21ケ所のグループホームを運営するに至っています。

2.相談支援の現場

私たちは、相談支援の実践こそ専門的なソーシャルワークへの取組の積み重ねであると考えています。相談支援の現場に寄せられる相談の多くは、直ちに地域移行や地域定着、あるいは計画相談といった枠組みでは捉えられないものが多数を占めます。また、相談に訪れる人に制度の内容を理解している人は少ないのが現実です。ここで最も求められる相談支援センターとしての姿勢は、まず相談そのものを心の痛みとして受け止めることです。まずは信頼関係の構築です。制度の枠に馴染まないことを理由に相談を中断、あるいは他の関係機関に出向くように促すことは相談者の期待を裏切ることに他なりません。

そして、次に求められることは、相談支援センターの職員が相談者と共に動くことです。相談者の生活課題の解決にあったて、例えば保健師との関係の構築が必要とする場合には、職員と相談者が一緒に保健所に出向き、保健師と相談者の関係を繋ぐよう努めることが重要となってきます。相談者にとっては、相談支援センターの門をくぐるにも大きな勇気を要したのです。その精神的負担をいくらかでも軽減する配慮が求められます。

相談支援をはじめとする福祉事業の推進にあたって私たち社会福祉法人は、改めて次に掲げる3つの視点を共有したいと考えます。それは地域社会における社会福祉法人としての責務を日々果たしていくことに他ならないからです。

①  地域と共に歩む法人の基本理念の確立

②  基本理念に基づく地域活動実践の積み重ね

③  地域における連携基盤の構築

相談支援現場の予算も体制も脆弱なのが現実です。経営を最優先に考えるならば計画相談の積み上げに集中することとなります。しかし、深刻な生活課題を目前としたとき、本来の社会福祉法人としての使命と役割に立脚した姿勢が社会的に求められます。その明確な基本姿勢の下に、生き生きとした社会福祉士をはじめとした福祉専門職の活躍の場を私たちは求めていきたいと考えます。

相談支援の現場に働く職員の置かれた環境は苛酷といって過言ではありません。多くの職員が大きなストレスを抱えて日々戦っています。法人の基本理念や基本姿勢、そのものが社会的責務としての相談支援の現場を繋ぎ支えていくのです。そして、理念や姿勢を共有する法人や事業所の連携が相談支援の実践力と地域の関係性を高めていくといえます。

相談支援ケースの紹介

◆障害特性が疑われる女性とその母親への支援事例

今回の事例では、地域の中小企業の経営者から寄せられた相談から女性従業員へのファミリーソーシャルワークへと展開した1つのケースをご紹介します。このケースは障害特性の診断がなされず、また、当事者からの直接の相談でもなく、さらに、障害福祉サービスの利用に係るケースでもないことから、制度的に障害者総合支援法に基づく相談支援とは認められない事例です。

相談支援センターと日常的にお付き合いのある中小企業の経営者は障害者雇用を積極的に進めており、従来からセンターと良好な関係性にありました。その経営者からの相談内容は次のようなものでした。

□一般雇用の女性従業員に精神的な不安定さがみられる。

□その背景としては、女性従業員の娘さん(仮称Aさん)が毎日のように外泊し、気づかれないまま出産したことなど、苦労が絶えない状況が推測される。

□女性従業員の相談にのってもらいたい。

この経営者からの相談を受けて相談支援センターは女性従業員との面接にのぞみました。まずは相談の過程で、家庭内の問題を相談員が受け止めることで女性従業員は精神的な不安定さからの落ち着きを見せ始めます。女性従業員の精神的不安定は実の娘Aさんの日常的な行動への心配と不安にありました。

それは次のような内容でした。

□娘Aさんが衝動的に外出と外泊を繰り返している。

□Aさんがネットショッピングの債務管理ができずに、督促状が数十件寄せられている状況であり、それに強い不安を感じている。

□出会い系サイトで知り合った男性とAさんの間に子どもができ、本人と家族も気づかないままに、ある朝、自宅で出産してしまった。その子をどう育てたらいいかわからない。

女性従業員は娘Aさんの行動に不安を募らせるばかりで、精神的に取り乱してしまった状況が窺えました。また、女性従業員とAさんの関係性は良好とはいえず、母親としての不安と心配を言葉にして繰り返しAさんに浴びせ追求していた状況にあったのです。

相談支援センターは数回の女性従業員との相談支援を通して、Aさんの障害特性を疑って医療機関への受診を薦めました。医師の見解として発達障害の特性が疑われたからです。しかし、Aさんからは障害特性を確定するための検査には同意は得られていません。母親の「押し」で渋々、受診をしている状況にあります。

ネットショッピングの債務に対しては女性従業員の同意の下に成年後見センターに協力要請を行いました。複雑な債務状況をAさんは頭の中で感覚的に処理している状況で、責任感は伴っていません。母親として、自らの責任感でその債務の一部を支払っていますが、母子ともに債務状況はいまだ正確に把握できない状況にあります。

自宅で出産した子どもについては児童相談所・乳児院を経て、里親に預けられています。Aさんは子どもを養育できないことにより児童相談所が介入している現実を受け止ることができていません。Aさんの相手の男性には子どもを養育する意思はなく、電話番号が変更されて連絡がとれない状況から、出産当時は、女性従業員の兄弟が一時的に子どもを養育するなどの混乱した状況にありました。

Aさんは自身が自分のおかれている状況や特性を受容しようとせず、2年間に29回の相談支援を通しても次のような課題が継続しています。

□相談支援センターでの面接を徹底的に拒否している。

□成年後見の手続きが進まず、債務が増え続けている。

□障害特性に関する確定診断受診を拒否し、具体的な福祉サービスの活用ができない。

□子どもを養育するための課題の整理ができていない

この事例の女性従業員とAさんが抱える生活課題への対応は困難を極めています。しかし、相談支援センターとしては、今後とも継続して母親である女性従業員への助言を通して、生活課題の整理を行っていくこととしています。このケースは何らかの支援がなければ生活破綻に繋がり、連続的・継続的な支援を要すると考えられからです。

問題の解決プロセスが教科書のように紹介される単なる事例のようですが、全体像の底流に、今日問われている社会福祉法人の責務と役割が見えてきます。且つ、歴史の中で民間社会福祉事業がもち続けてきた『ボランタリズムの思想』が息づいていることにも気づかされます。本事例から垣間見える社会福祉法人の精神と実践を今後とも継続していきたいと考えています。

◆制度の枠を超える~ボランタリズムの精神~

本事例は困難ケースではあるが事業所にとっては制度による報酬には繋がらず見込みもありません。しかし、担当ワーカーは「放っておけない」状態にある家族と向き合い、「痛みをもつ人の痛みに共感」し、問題解決に取り組んでいます。法人もそのような専門的援助の過程の重要性を基本的姿勢としています。痛みをもつ一人の尊厳と価値を受け止め力を注ぐことにこそ『ボランタリズム』の姿勢があります。一人の痛みと向き合ってきた実践の積み重ねこそが社会福祉の歴史を創造してきたのです。

◆地域からの相談~アウトリーチから福祉コミュニティーの形成~

会社の事業主が従業員の様子と相談から「何とかしなければ」と心配し、日頃、障害者雇用でつながりのある相談支援センターに相談が寄せられています。障害者への配慮の中で培われた姿勢が女性従業員への心配りに繋がっていることが伺えると共に、積極的に地域に出向くワーカーとの間に信頼関係が築かれています。様々な人との信頼関係の構築が問題発見と同時に「福祉の心」を育成しているともいえます。相談を待つのではなく、地域へとアウトリーチしていく姿勢と信頼関係の構築こそが、問題を放っておけないという福祉コミュニティーの形成の可能性を広げていくといえます。

◆補完的機能の介入~手間をかけ余計なことをするボランティアとの役割分担~

本事例は、既存の制度利用にはならないが、誰かが見守り支援をしていかないと家族全体が崩壊してしまうリスクを抱えて生活をしています。明らかに援助・支援ニーズはありますが、制度を前提としてしかニーズに対応できない行政では役割が果たせないことから、民間の補完的な機能が必要です。

言葉をかえれば「手間をかけ」「余計なこと」をするボランティアの姿勢をもって生活を支えることが求められます。このような生活課題に対しては、安定的支援が継続できる仕組みとネットワークが必要です。「公」としての制度と「私」としての「ボランティアの姿勢」をもつ民間社会福祉及び地域社会とが、どのように役割分担していくのかの問題提起も社会福祉法人の実践にかかっているといえます。

「自主性・主体性」「社会性・連帯性」「無償性・無給性」「創造性・開拓性・先駆性」というボランタリズムの精神をもって『痛みをもつ一人』と向き合って『社会と共に、社会に遅れて、社会に先んじて、社会に抵抗して』同一性と客観性をもった実践を積み重ね、新たな歴史を築いていくことにこそ社会福祉法人の責務と役割であることを改めて確認しています。

<総括・解説>

(1)今後の方向性

事例の中小企業経営者は障がい者雇用での繋がりから相談支援事業所に対して女性従業員の相談を持ちかけたものですが、相談の過程で女性従業員が精神的な落ち着きをみせてきたことに安堵しています。

女性従業員としては、衝動的行為に走る娘Aさんに対する助言を得ることで相談支援センターへの信頼感を寄せていますが、解決の見通しがたたないことと家庭内の問題が会社に知られないかなど不安感は継続しています。

また、本事例は地域における相談支援事業所との連携には至っていません。女性従業員の娘Aさんとの関係性の構築が不良となっているからです。この事例のほか、居宅に暮らす発達障害者の存在は相談支援事業の取り組みの中で徐々に明らかになりつつあります。発達障害への支援方法そのものも普及しておらず手探りの中で、その対応に苦慮している事業所が多いのが実情です。

相談支援事業所間の連携の一つとして発達障害への支援方法を学習し、家族への助言に活用できるレベルを目標にして取り組みを始める必要があると考えられます。発達障がいの実態はまさに多様ですが、家庭に閉じこもりがちな生活環境から少しでも社会との接点を探し求めること、そして関係性の構築に努め続けることが相談支援センターに求められています。それは、Aさんが「安心して生活できる福祉コミュニティー」を自身で実感できる日を共に目指しているからです。

(2)年間約1万件の相談に対応するための体制整備と法人負担

小樽市内の相談支援センターは市内の中心部のビルの一室を借り上げ、事務所の初期費用として約500万円を投下。二つの相談支援部署で構成しています。

一つは、「障害者相談支援センター」で、常勤5名(専従3名・兼務2名)で、約600名の登録者を対象に年間5,000件の相談に応じています。年間事業費は約1,700万円。約500万円の計画相談給付費収入の他は市からの委託費と法人の持ち出し(法人負担は年によって異なるが約300万円前後)となっています。相談内容は生活や就労、サービス利用などに分類できない「その他」が9割以上を占め、相談者が多岐にわたる生活課題を抱えている実態がみえてきます。就労・生活支援、並びに相談支援では民間企業は約150事業所に協力をいただき、就労支援に取組んでいます。

もう一つは、「障害者就業・生活支援センター」で、常勤5名(専従3名・兼務2名)、非常勤1名の職員体制をとっています。センターを利用する登録者は約450名、相談件数は年延べ約4,900件に上っています。年間の事業費は2,400万円で、財源は委託費の1,850万円と法人負担550万円となっています。精神障がいと発達障害を主な障がいとする登録者は3割ですが、相談件数は全体の4割を占めています。夜間の電話相談は必須となっている状況です。

参考資料sankou

小樽市における自立支援協議会の構成

小樽市の自立支援協議会は次の構成員で全体会を構成しています。

  • 地域包括支援センター(4事業所)
  • 公共職業安定所
  • 就業・生活支援センター
  • 発達障害親の会
  • 知的障害親の会
  • 身体障害福祉協会
  • 市社会福祉協議会
  • 市民生児童委員連絡協議会
  • 社会福祉法人(知的4法人・精神1法人・身体2法人)
  • 相談支援事業所(委託6事業所・市直営2事業所)

自立支援協議会の全体会では、委託相談支援事業所の運営の評価や地域の関係機関によるネットワークの構築などについて検討を行います。

そして、障害児・者の支援協議会の運営体制は市と相談支援事業所の代表が幹事会(毎月1回の開催)を構成し、5つの部会(○印)と2つの協議会(□印)、1つの実行委員会(△印)を設けています。各部会の幹事は6つの委託相談支援事業所で分担しています。

○全 体 会

○幹 事 会

○子ども支援部会

  • とむとむファイルの普及
    障がい児関係機関との意見交換

○就労支援部会

  • 就労支援に関する情報交換
  • 就労促進に向けた協議

○福祉井戸端部会

  • 相談支援事業所間の意見交換
  • 事例検討
  • 情報交換(居宅介護・入所施設の情報等

○地域移行部会

  • 地域移行の情報交換
  • 地域移行支援等の普及啓発
  • 地域移行対象者の把握

○権利擁護部会

  • 障害者差別解消法の普及啓発

□相談支援連絡協議会

  • 基幹相談支援センターの在り方検討
  • 市の相談支援体制の協議
  • 計画相談の評価方法の検討

□障害者虐待防止等連携協議会

△啓発事業実行委員会

  • ○○フェスタの運営実施